小津夜景さんの「出アバラヤ記」(第2回攝津幸彦記念賞・準賞受賞作・『豈』第55号掲載)を読んだ。
句の前の位置に付された散文は、詞書と称されているものの、ひと続きの物語になっている。始まりは、「ふみしだく歓喜にはいまだ遠いけれど、金星のかたむく土地はうるはしく盛つてゐる。」という一文。終わりは、「私はそこを離れ、それが思ひ出せない。」に始まる一節。読みごこちとしては、(作風や筆致、内容、散文部分の長さは異なるが)柴田千晶さんの『生家へ』(2012年10月・思潮社)に近いものを感じた。
50の句(賞の性格上こちらがメインのはず)は、物語を辿る際の道標、といってもあくまで非・明示的な謎含みの道標のようにも見える。
さて、この作品の大きな魅力は、「出アバラヤ記」(このネーミングそのものが飄逸)というタイトルに違わず、トポスにまつわる感触に溢れていることだ。
空間的な限定、そして時間的な浮遊(しばしば思い出と呼ばれるもの)、このふたつが一定のトーンのなかに織り込まれている。
この「出アバラヤ記」、とりわけ「べつに俳句だけが読む愉しみじゃないし」という人(例えば私)向きの読み物。
雑音の白くなりゆく臓器かな 小津夜景
一読をオススメするでがんす。
≫『豈』第55号 web shop 邑書林
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