2015/08/16

■特別な満月 小林すみれ句集『星のなまへ』の一句

満月の窓を大きくあけてある  小林すみれ

大らかで気持ちのいい句。

平易な作りのせいもあって、どこにでもある景、誰もが見たことがある景のように思えてしまいそうですが、考えてみれば、窓に満月が見えることは、ある種、特別なことです。月の運行からすれば、ある特定の季節、特定の時間。どんなに大きな窓であろうとも、どんなに大きく全開にしようとも、その〈時間〉は限られる(数分ではないにしても数時間でもない)。

句には、窓に満月が見えない(たくさんの)時間のことは何も書かれていませんが、やはり、この景は〈特別〉、この時間は〈特別〉。

「の」は、まさに満月がそこにあることを示し(例えば「に」だと、待っているとも解釈できる)、「を」は〈特別〉〈格別〉へと積極的にアプローチする姿勢(例えば「の」「が」で窓を主体にするのではなく、窓を開ける人の行為に焦点が当たっている)。細かいことを言うようですが、こうした一字一字の働きによって、句の気分が醸されていくのだから、細部はだいじですね。


掲句は小林すみれ句集『星のなまへ』(2015年7月/ふらんす堂)より。

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