本を集めるという発想は、日本では意外に古くから存在した。九世紀といえば平安初期の儒者で官僚だった滋野貞主(しげのさだぬし)(七八五~八五二)が、儒者仲間と諮って貴重文書一〇〇〇巻を集め、分類をほどこし『秘府略(ひふりゃく)』と称したが、間もなく散逸し、今日わずか二冊しか伝わっていない。貞主はまれに見る学識の持ち主で、かつ良吏でもあったため、毒瘡に斃(たお)れたときには時人のことごとくが嘆き悲しんだという。このような人柄であるから、国政に資するための文献収集を考えたのであろうが、いまだ理解者に乏しかったことは、簡単に散逸してしまった事実からもわかる。
紀田順一郎『日本博覧人物史 データベースの夜明け』(1995年/ジャストシステム)
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