2014/06/19

■幽霊の身体

あまがへる眉間にあふれやまず咳 小津夜景(以下同)

ここはまだすこしすずしい指がとぶ

パセリかと刎ねたらなにものでもない顔

「天蓋に埋もれる家(後)」より。
http://sengohaiku.blogspot.jp/2014/06/ozuyakei27.html

身体部位のモチーフ。



女性のつくる俳句には一般に「身体感覚」のモチーフが頻繁に登場する。それらの多くが身体を「我」に(しばしばベタベタに)引き寄せた処理であるのとはかけ離れた「天蓋に埋もれる家(後)」の句群。

崩壊感覚。崩壊して「我」から遠くへと、所在を喪失していく。

もう予想がついてるかもしれないけど実は/実は私はこの家の幽霊なの/広すぎるやうな、狭すぎるやうな、すべてを呑んでしまつたやうな、じぶんの重さで天 蓋に減り込んでしまつたやうなこの家の幽霊なの/ここがすべてを呑み込むせいで、私は世界の外をうしなひ、私は孤独な世界になつた/けれど、どこまでも開 かれた袋小路にゐる私には、もはや出てゆく場所がない(小津夜景・同)



「天蓋に埋もれる家」というタイトルからして、たいそう魅惑的なのですよね。いまさらながら。


付け加えるに、〔魂の容れ物が身体〕という多くの身体感覚モチーフの捉え方と大きく異なり、〔魂=身体の容れ物が「世界」〕。

だから前篇・中篇で、場面設定に丹念に(逡巡しつつ)句数が割かれているのかもしれません。で、後篇で一気に身体=魂の崩壊にまとめあげた、と。

自分勝手に、とても楽しませてもらった連作でした。

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