2018/04/17

■冒頭集:中心の発見

 ロンドンにあるBBC(英国放送協会)の一室で、BBCの古いタイプライターに向かい、BBCのなめらかで、"音のしない(ノンラッスル)"タイプ用紙に、はじめて本のかたちとなるはずの原稿の最初の一文を書いたのは、今から三十年以上も前になる。私は、あと三ヵ月ほどで二十三歳の誕生日を迎えようとしていた。オックスフォードを離れて十ヵ月が経ち、ロンドンで暮らしていた。どうにか生計を立て、その合間に不安をやわらげようとしていあtが、たいていは不安をつのらせるだけだった。私は作家の道を歩きだそうとしていた。
 オックスフォードでは、ずっとトリニダード政府の奨学金をもらっていた。ロンドンでは自力で生活費を稼いでいた。収入といえば、BBCのカリブ海向け放送から、わずかばかり天引きされて支払われる週八ギニーがすべてだった。それまで、というか過去二年間の唯一の幸運は、カリブの人びと向けに週一回の文芸番組を編集し、放送するというパートタイムの仕事を見つけられたことだった。
V.S.ナイポール『中心の発見』Finding the Center, 1984(栂正行訳/草思社/2003年)

冒頭集:神秘な指圧師

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