後年の彼は南カリブ海方面きっての名士だった。民衆の英雄としてあがめられ、のちにはレイク・サクセス駐在のイギリス政府代表になった。しかしわたしがはじめて会ったとき、彼はまだ無名の指圧師にすぎなかったし、当時トリニダードには指圧師なら掃いて捨てるほどいた。
それは第二次世界大戦がはじまったばかりのころで、わたしはまだ小学生だった。むりやりフットボールをやらされて、最初の試合でしたたかむこうずねを蹴とばされ、わたしは何週間も寝たきりになっていた。
V.S.ナイポール『神秘な指圧師』The Mystic Masseur, 1957(永川玲二・大工原彌太郎訳/草思社/2002年)
タイトルの「神秘な」という用法はやや変則。堅苦しいことをいえば「神秘の」あるいは「神秘的な」となるところ。でも、これでもいい。その手の正統とは無縁の小説だから。
翻訳は、直接話法(トリニダード訛りの英語)を「広島弁」に訳すという快挙。
で、この小説、おもしろさ超絶、文句なしのオススメ。
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