2014/11/26
■ドラマのなかの雪・暮らしのなかの雪 海野良子句集『時』
雪がほとんど降らない、積もらない、何年かに一度積もって雪達磨をつくっても土の黒が混じったまだらの雪達磨になってしまうという土地に育ったので、降雪・積雪は一種の事件であり、雪とはそのようにドラマチックでありました。
雪は美しい。白いものが空から降ってくるなんてとても不思議じゃあありませんか。視界全部が真っ白になるなんて、尋常じゃありません。実際、雪は、美しいドラマの道具立てに最適です。雪を歌ったポップスも同様。
ところが多くの日々雪を日常として暮らしている人には、雪とは、どういうものなのでしょう? ふだん雪を知らない私たちが見る雪、感じる雪とは違う雪であろうと思います。ドラマのようにロマンチックなだけではない雪。ふわっとしたイメージで捉えられた雪ではない雪。
海野良子句集『時』(2014年10月/邑書林)には雪の句がたくさんあります。
新雪の上にさつそく蔵の影 海野良子
蔵のある家の庭の景か、あるいは蔵のある街の道の景か。降るなり晴れて、影が雪の上にくっきりと現れる。
忘年会その二時間に積る雪 同
宴が盛り上がり酒が進むそのあいだも雪がずっと降っている。生き生きとした生活感があります。
雪を掘り雪掻きの道つくりけり 同
雪深い土地ならではの手順です。数センチ、十数センチの雪を掻いたことしかない人間には思いが至らない。
雪だるま作り大人の声ばかり 同
これはちょっと都会の景としても読めそうです。
送りだすための玄関春の雪 同
毎朝の送りだしとも読めますが、「春の雪」とあるので、春から生活が変わる(例えば上京する)人を送りだすのでしょう。
ドラマや歌のなかでロマンチックに扱われる雪、ふわっとしたイメージで捉えられた雪。
暮らしのなかでいろいろな相貌を見せる雪。
このふたつがあるわけですが、後者のほうがずっと美しいし、むしろドラマ。掲句を読んでいて思いましたよ。
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