2019/07/19

■冒頭集:厭だ

「厭だ」
 同僚の深谷が、突然溜め息と聞き違えるかのような声を発した。喘ぎ声である。視線を向ける。カウンターに突っ伏しているので表情までは窺えない。ただ、肩の線といい項の覗き具合といい、まるで倦怠感の塊のように、ずっしりとしていて重苦しい。
京極夏彦「厭な子供」;『厭な小説』2009年/祥伝社

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