2023/04/27

■音数歳時記・夏

立夏を前に、もうすぐ(この週末あたり)書店に並ぶはず。『音数で引く俳句歳時記・夏』。


春は《バスを待ち大路の春をうたがはず 石田波郷》で始まりましたが、夏の最初は1音の「暑(しょ)」。

ページ数は春よりも増え(夏は春よりも季語が多い)、そのぶんすこしだけ値上がり(ご容赦ください)。

例句には今回も腐心しました。ひとつ、トピックは「夏木立」の例句。購入なり立ち読みなり(もちろん購入が望ましい日本経済にとって)。

春に続いて夏も、おたのしみいただけたら幸いです。

2023/04/05

■音数歳時記のこと

ひょんなことから、季語が音数順に並んだ歳時記という、これまで多くの俳句実作者が「あったら便利かも」と考えたはずなのに、なぜか、なかった歳時記をつくることになり、企画スタートから春の巻の刊行まで期間が短かったこともあり、きほんひとりであることもあり、いや、そもそも「歳時記をつくる」ということ自体が、まあまあ大変な作業であるわけですが。


大変は大変ですが、それでも愉しみはあります。例えば、例句。書籍の性質上、多くを載せる必要はありませんが、皆無だと、格好がつかない。それにまた、味気ない。で、載せるわけですが、自分の中にいくつか方針があって、ひとつには、少ないなかにもヴァリエーションを出すこと。もうひとつには、ヘンな句、というと語弊がありますが、歳時記に載りそうにない句、例えばパロディとか攝津幸彦とか加藤郁乎とか毛呂篤とかを入れる。といっても、ヴァリエーションの点から「ヘンな句」ばかりではいけない。いわゆる名句として評価の知れ渡った句も入れる。てなかんじであれこれ考えながらの作業は、存外愉しいのですよ。

音数順に並んだこの本、春の巻の冒頭は「春」(2音・時候)です(この巻には1音、例えば和布刈り(めかり)の和布(め)とかを入れませんでした。いろいろ考えたすえ)。

で、春の例句の先頭は、この句。

 バスを待ち大路の春をうたがはず 石田波郷

このあいだの記事で取り上げたこの句を例句の最初に持ってくることは、かなり早い段階、作り始めの頃に決めていたことでした。決めたことを実現できた。このことだけでも満足しているのですよ。

ラヴ&ピース!

2023/04/03

■大路の春

春といえば、この句。

バスを待ち大路の春をうたがはず 石田波郷

時間も空間も心根も、すべてがおおらか。大好きな句です。

俳句を始めてまもない頃、この句を読んで、頭の中に、行ったこともない(実際に)見たこともない満州国の空と道が広がったのは、きっと、桑原甲子雄の写真集『満州昭和十五年』(1974年/晶文社)の影響です。

俳句を読んで、どんな景を思うかは、人によって(大きく、あるいはわずかに)違う。大多数の読者の想像とあまりにかけ離れていると、それは誤読ということになるのだろう。私の場合、誤読、あるいは「自分勝手な読み」と言われてもしかたがないのだが、広がってしまったものはしかたがない。今も、その、というのは読んで最初に感じた空気を、この句はまとっている。

ところで、戦前の満州に、バスは走っていたのか? そう訝しがる向きもあろうかと思いますが、ちゃんと路線バスや観光バスが走っておったのですよ。


こんな写真を見ちゃうと(写真自体は夏っぽくはあるものの)、ますます掲句を満州に置きたくなります。そうなると、やはり、「大路」は「おおじ」ではなく、「たいろ」と読みたくなるんですよね。

なお、自分の読みを正当化したり押し付けたりしたいのではありません。なんか、人と違う感じに読んじゃったんですよね、という話。

ラヴ&ピース!