2019/11/30

■冒頭集:悪夢のはじまり

設計を担当した者の安易な発想が、丸窓、分かりにくい位置にあるエレベーター、空間効率の悪い階段などに表現される、当人にすりゃあ奇抜、通常人から見りゃあ陳腐な外観の、しかしよく見るとところどころいかにも安手の材料・材質・施工、しかも、管理運営がきちんとなされていないせいか、ペンキは剝落し錆が浮き建物全体が埃にまみれて薄汚れた集合住宅。なかなかやって来ぬエレベーターに業を煮やした自分は、駅から歩いて足が棒のようになっているのにもかかわらず、遅刻を恐れた自分は、背後の階段を四階まで一気にかけ登った。
町田康『実録・外道の条件』(2000年/メディアファクトリー)



2019/11/28

〔連鎖〕23 川合大祐

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23 川合大祐 2019-11-28

カール・セーガンのアップルパイのつくりかたを調べていたら、「軛」という文字が出てきて、さてその記号を前にわれら何をするべきや、われら何処より来たるや、われら何者なるや、と自問しつつ、レシピに戻れば、「軛」の文字がいっそう増えていて、これならばアップルパイも自動的に生成されるだろうと慶賀していたところ、魔法使いの弟子状態と言うべきか、「軛」、レシピをあふれ、リノリウムにぽちゃぽちゃとみちあふれ、団地をあふれ、市境をあふれ、惑星をあふれたところで、漢和辞典を引くに、「軛」、一切の辞典から消え失せていて、それが宇宙の法則だと悟ったのも束の間、アップルパイは完成したものの、「軛」のないアップルパイは、もう午後の紅茶にはなにかしら物足りないのだった。



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2019/11/27

■ひとの球・露の玉 『奎』第11号の一句

ボウリングをときどきひとの球や露  有櫛くらげ

ボールには見えない通り道があってシート近くのボール溜まりに並ぶ。色や重さは違うのだけれど、うっかり他人の球を持ってしまう/投げてしまうことはありそう(って、こんなにまわりくどく書かなくても、状況はよくわかる)。でも「ときどき」は頻度高すぎるだろ?

助詞「を」を上6音承知できちんと入れた点、好感。ここは助詞要るだろうってとこも省略してむりくり5音にしている句をよく見かける(纏足的5音と呼ぶ)。

季語の「露」はえらく唐突だ。あまり意味はなくて、ほんと唐突。2音しか余らなければ使える季語は限られる。いいかげんな動機、フマジメな態度が垣間見え、そこも好ましく、「露の玉」からの連想、あるいは「露の玉」が見え隠れしている句と解すのも愉快。

掲句は『奎』第11号(2019年9月12日)より。


2019/11/26

〔連鎖〕22 西原天気

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22 西原天気 2019-11-22

 もはやお忘れであろう。或いは、ごくありきたりの常識としてしかご存知ない方も多かろう。が、試みに東京の舗装道路を、どこといわず掘ってみれば、確実に、ドス黒い焼土がすぐさま現れてくるはずである。
阿佐田哲也「麻雀放浪記」:『色川武大 阿佐田哲也全集7』福武書店1992



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2019/11/25

■散歩とチーズ

くにたち句会、無事終了。

句会後は、フルさんの欧州みやげ、各種チーズ。


句会の前に、散歩。


学園祭をやっていたので、構内へ。「Sing, Sing, Sing」の野外演奏はジャズ研と吹奏楽部の合同とのこと。

ラヴ&ピース!



2019/11/23

■空と町 『Υ(ユプシロン)』第2号より

蚊喰鳥空と町との間より  岡田由季

コウモリに「間」はぴったり(鳥と獣の間)なのですが、それよりも、距離感。それほど遠くないけれど、近くでもない、高くではない、かといって低すぎない箇所から現れる/飛んでくるコウモリ。

町はシルエットになっているわけです。夕暮あるいは夜間の。

掲句は『Υ(ユプシロン)』第2号(2019年11月1日)掲載の岡田由季「亀と鴨」より。


2019/11/22

■ピーマンとくらげ 『Υ(ユプシロン)』第2号より

ピーマンに南南西の風の吹く  中田美子

ピーマンは夏(晩夏)の季語らしい。唐辛子は秋の季語らしい。何が言いたいのかというと、そのへんのことはわりあいどうでもいいということ。ちなみに昨晩、ピーマンを食しました(もっとどうでもいい)。

南風は夏の季語。では、南南西の風は? 「ほぼ夏」の季語? このあたりも含め、やっぱりどうでもよくて、だいじなのは、この句の明るく気持ちのいい風のこと。それでいて、図太く言い放った感があるところ。

ロールシャッハ第三図版海月浮く  同

これはなぜか、遠い沖、よりもさらに遠く南方の海原。なぜそう思うかは不明。

でもまあ、この世には、私には、わけわかんないことのほうが圧倒的に多いんだから、ぜんぜん気にしない。

掲句は『Υ(ユプシロン)』第2号(2019年11月1日)掲載の中田美子「歯車」より。


2019/11/21

〔連鎖〕21 小津夜景

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21 小津夜景 2019-11-21

薬をずっと使っていると、それがどのくらい効くのかってことがわかんなくなっちゃいますよね。

ええと、あるとき、わたしのマンションにハードコア・パンクの男の子が遊びに来たんですけど、それが少し頭のおかしい子で、部屋に入るやいなや、そのへんの抽斗をいきなりあけたんです。もうびっくりして、やめてよって叫んだんですけどやめてくれないの。さらに下着の入ってるとこもあけて、お、と一瞬止まったんです、で、くるりとこっちを向いて、なんやねん、じぶん、なんでこんなええもん持ってるん? とにやにやしながら言うんですよ。

ずっと使ってるからだよ。

少し分けてくれへん?

好きにしたら。でも、あなたが想像してるほど効かないし、それ。

……って感じの会話をしましてですね、はい、その子はたっぷり薬を持って帰りました。そのあとは部屋で楽しむのかなと思ったら、わざわざ国会議事堂前に出かけて、デモやりながら噛んで、ものの十分でふらふらになったところを国家権力に引っぱられてましたね。まあハードコア・パンクな人なんで、二十日間完黙してくれましたけど。

ええ、あんなかんたんにキマッちゃうって知ってたら、もちろんあげませんでしたよ。死ななくて良かったです、ほんと。



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2019/11/19

〔連鎖〕20 喪字男

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長らく途絶えていましたが、1年半ぶりに再開します。つないでいくゲーム。「つなぎたい」という方はtenki.saibara@gmail.comまでご連絡ください。



20 喪字男 2019-11-19

WHOの秘密機関によると、●●●●はガンの次に多い死因であり、2013年には1000万人の患者が発症し200万人が死亡した。●●●●による死者の95%以上は低中所得者層であり、28-59歳男性のトップ5死因に入るが、日本では公開されていない。

WHOは2017年にも1500万人が新たに●●●●と診断され、240万人が死亡したと推定している。このままでは国際連合が持続可能な開発目標で掲げる「2020年までの●●●●流行終息」達成が難しいとして各国の対策強化を求めている。また世界では30万人の0-14歳児童が●●に罹患しており、2013年では12万人が死亡した。また鬱患者はリスクが28-36倍となり、鬱患者の4人に1人は●●●●で死亡している。

感染様式は●●●●を含む思考や感情の吸入によると言われ、●●●●キャリアからの唾液、不燃ごみよる感染も指摘されている。世界人口の4分の1が●●●●に感染しており、毎秒の単位で感染患者が発生している。

治療法として高速で行う連続後転を推奨するという研究もあるがその効果は疑問視されている。

2019/11/18

【お知らせ】11月のくにたち句会

2019年11月24日(日)14:00 JR国立駅改札付近集合

句会場所:ロージナ茶房(予定)

席題8題程度

事前兼題2題(当日お持ちください) 電 切る〔動詞・活用アリ〕

初参加の方は、メール tenki.saibara@gmail.com電話etcでご一報いただけると幸いです。問い合わせ等も、このメールまで。

2019/11/17

■イベント「句の景色」


イベントをやってるらしいです。荻窪駅から徒歩10分のとこで昨日から12月2日(月)まで。
https://www.title-books.com/event/7059

2019/11/15

■梅の筆跡 『Υ(ユプシロン)』第2号より

梅三分茅舎の筆跡の丸み  仲田陽子

川端茅舎の字を調べちゃったわけですが、ネットで気軽に探そうったって、そううまくいきません。あんまり出てこない。それでも、なんとか、これとか(→画像)。

なるほど、いい字だ。ってわかったようなことを言ってしまいましたが、訂正。好きな字。

字と梅は相性がいい。とりわけ墨の字だと、ダイレクトに梅の絵へと意識がいざなわれる。「三分」の固さは、やわらかな字のかたちに隣り合う紙の硬質や字の中の直線を想起させ、いいあんばい。

掲句は『Υ(ユプシロン)』第2号(2019年11月1日)掲載の仲田陽子「日にち薬」より。

冬から秋へきちんと並んだ連作50句には、

木枯は微かに錆の匂いして 同

といった比喩の駆使から、

誰かから抜けたる羽毛水温む 同

といった飄逸、

ワゴン車の定員満たし潮干狩 同

といった何気なさまで、モチーフやアプローチは幅広い。全体を通して、季語の坐りの的確さ、バランスの良さを思う50句。品質キープ力に長けたアルチザン的俳人さんなんだなあ、と思ったことですよ。






2019/11/14

■滝の輝き 『Υ(ユプシロン)』第2号より

いちにちの果て月光を着たる滝  小林かんな

「果て」は直接的な文脈では時間の範疇。けれども、滝があることで、地理的な「果て」もかすかに響く。

いろいろあったかなかったか、ともかく、その一日が終わり、道程の終わり、月光に輝く滝。

「着たる」の擬人法がそれほど気にならず、浴びる、帯びる、包まれるといった、より擬人から遠い措辞よりもむしろ効果的に思えるのは、滝の〈立ち姿〉が美しく現前化するからだろう。

掲句は『Υ(ユプシロン)』第2号(2019年11月1日)掲載の小林かんな「一分動画」より。

同作品の、

長時間露光鯨の裏返る  同

もまた前掲句と同様、美しく輝く景。


2019/11/05

■外階段:東京都(おそらく)中央区

川に出れば川面を眺め、橋があれば渡る。ならば、陸橋があれば渡る。散歩の流儀(というと大げさ。習性ですね)。


渡ったついでに外階段をゲット。


2019/11/04

■此岸にかえる

このところ、京極夏彦と平山夢明をたてつづけに十数冊読んでいて、うわっ、まずい、この世に戻ってこられなくなるのではないか。ということで、ここは、なにかほんわかして健全なものを1冊、と思ったが、振れ幅が大きすぎるのも、それはそれで危ないと思い直し、色川武大/阿佐田哲也の未読のものを漁る、ということに決めた。

ラヴ&ピース!

(上記すべて、ピースじゃないけど、ラヴ)


2019/11/03

■外階段:善福寺川と神田川

地下鉄方南町駅から中野富士見町駅へぶらぶら(例によって吟行の散歩部分に混ぜてもらう)。

川のある散歩は、やっぱり、いい。