2021/10/01

■奇妙なカステラ 飯島章友『成長痛の月』の一句

ゆくりなく鶏の声出すかすていら  飯島章友

そりゃあまあ、タマゴが材料だから、と、説明になっていないかもしれない「説明」や「解釈」が口をついてしまうのは、良否の如何は別にして、いたしかたのない事象、ありがちな読者の事情だと思うが、そうしたアタマの中の動きよりも先に、まず、カステラが鶏の声を出したその瞬間の驚きを驚きとして感じるべきなのであって、ああ、吃驚したぁ、〈書かれている〉ことを読む、それが読者の態度であり為すべき仕事なのではあっても、ここで、ちょっとした問題として持ち上がるのが、〈書かれていない〉ことは読まない、という潔さのそのとき、最初の話題に戻れば、カステラの材料に鶏卵が含まれる、重大に含まれるという事実は、はたして、ここに〈書かれている〉のか〈書かれていない〉のか? ということ。

これ、じつは多くの句において、わりあい微妙な問題なんですよね。

ところで、このカステラ、食べる気、します? 親子丼を突き詰めて考えると喉を通らなくなる(丼に乗った鶏肉とタマゴは実の親子ではないにしても)のと同じで、いや、違うか、カステラから鶏鳴がしたら、食べるどころではなさそう。

ラヴ&ピース!


掲句は飯島章友『成長痛の月』(2021年9月/素粒社)より。

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