2016/04/14

■冒頭集:マルグリット・ユルスナール「老絵師の行方」

 老画家汪佛(かんふお)とその弟子玲(りん)は、漢の大帝国の路から路へ、さすらいの旅をつづけていた。
 のんびりした行路であった。汪佛は夜は星を眺めるために、昼は蜻蛉(とんぼ)をみつめるために、よく足をとめたものだ。二人の持ち物はわすかだった。汪佛は事物そものではなく事物の影像を愛していたからである。絵筆、顔料と墨を容れる壺、絹の巻物、通草紙(とうし)の画箋紙、それ以外のものはこの世で手に入れるに値するとは思えなかった。(…)


冒頭集だから冒頭をあげたが、この短編、ラストがじつにじつに素晴らしい。

こんな(↓)かんじのラスト。



マルグリット・ユルスナール『東方綺譚(Nouvelles orientales,1938)』(多田智満子訳/白水社)所収。

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