老画家汪佛(かんふお)とその弟子玲(りん)は、漢の大帝国の路から路へ、さすらいの旅をつづけていた。
のんびりした行路であった。汪佛は夜は星を眺めるために、昼は蜻蛉(とんぼ)をみつめるために、よく足をとめたものだ。二人の持ち物はわすかだった。汪佛は事物そものではなく事物の影像を愛していたからである。絵筆、顔料と墨を容れる壺、絹の巻物、通草紙(とうし)の画箋紙、それ以外のものはこの世で手に入れるに値するとは思えなかった。(…)
冒頭集だから冒頭をあげたが、この短編、ラストがじつにじつに素晴らしい。
こんな(↓)かんじのラスト。
マルグリット・ユルスナール『東方綺譚(Nouvelles orientales,1938)』(多田智満子訳/白水社)所収。
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