身に入むやつてことあるんだか寝ぐせ 小川楓子
皮膚を突き抜けて身体に染みてくるような寒さというのは、わかるにはわかる。でも、それは、経験や実感というより、慣用句としての「身にしみる」が目で耳で繰り返された結果のような気がする。だから、「身に入むや」ってことが、、ほんとにあるんだかないんだか、わからない。実際のところ、寒さにせよ何かにせよ、身に滲みた経験も気持ちもない。
ところで、季語には、物事そのものではなく、先人の文彩(あや)や比喩によってすでに処理されたものが、「身に入む」のほかにも数多くある(すぐに思いつくところでは「色なき風」)。その手の季語には慎重なほうで、あまり使いたくない。使わない。まあ、それはそれとして、掲句。あるんだかないんだか、そんなことあるのねえ、と来て、最後、「寝ぐせ」。この展開・締めは、たいそう愉快。
他人の寝癖よりも自分ののほうがおもしろいので、鏡に、盛大な寝癖が映ったと解しておく。
ラヴ&ピース!
なお、歴史的仮名遣いにしても、この句では、ちっちゃい「っ」を使いたいところ。
掲句は『舞』第111号(2022年1月10日)より。
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