2021/11/16

■前歯

前歯欠け気温三十九度三分  岡村知昭

寒くなってきたのに、こんな句で(って言うと、失礼か。でも、そういう意味じゃない。作者に失礼な意味の「こんな」じゃなくて)、申し訳ないです。

日本で39度超えは、ニュースになるレヴェル。そうとう暑い。暑いなか、前歯の欠けたこの人、たいへんだろうなあと思うと同時に、どんな人だ? と、やはり、その人の現状とか来し方とかに、無用にも深い興味を抱いてしまい、こう暑くては、こっちも汗だくですよ。

無季ではないし、韻律は律儀に五七五。でも、ヘンな俳句に仕上がっていて、ああ、素晴らしいなあ、と、これは、本気で、そう思ってる。

掲句は『豈』第64号(2021年11月)収録の岡村知昭「さみしい夜の象」20句のうちの一句。この句のうしろには、

象使いとはくちづけをしない仲  同

があり、もちろんのこと、句と句は別々なのだろうけれど、勝手に、前歯の欠けたくちづけを想像してしまい、前歯の欠けた相手とのキスの経験がないので、想像でしかない想像をしてしまい、あんがいマニアックな快楽なのかもしれんなあ、と。

ヘンな感じに、ラヴ&ピース!

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