2019/03/01

■冒頭集:自分の墓

新しいオカルト映画という触れ込みで封切られた『リーインカーネーション』は、これといったく話題にものぼらず早々に終ってしまったが、中にひとつ、マイケル・サラザン扮する主人公ピーターが、悪夢の中にきまって出てくるジェフという男の墓を訪ね当てる場面がある。このジェフこそが前世の自分なので、輪廻転生を遂げたとも知らぬピーターは計らずも自分の墓を眺め、手まで触れたことになるわけだが、こちらといえば先祖代々の墓とやらは山口市にあって、明治の初年からようやく東京っ子の仲間入りをし、墓参の習慣を持たぬ一族の裔(すえ)のせいであろうか、こうした"過去の自分の墓"をどうにかして探し出したい、一度だけめぐり会いたいという願望は、私にも久しくあった。(…)
中井英夫『墓地 終わりなき死者の旅』(1981年/白水社)


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