≫承前
私たちは産業革命以降の世界に生きているわけです。これは、じつに、もう、ほんとに。
鉄球にびくともしないコシノビル え
前句の羊から、「囲い込み」、さらに鉄へ。歌仙「自転車」は、名残表に突入。
コシノビルはデザイナー姉妹の自社ビルにも思えるし、地方の小ぶりなテナントビルにも思える。腰が強いという連想はさておくとして、鉄球でのビル解体、まだ実際に目にしたことはないのですが、壮観だろうなあ。
重力の罪深き木星 之
鉄球から重力へ。鉄球も木星も球体だから、ここはツキスギだったかも。
さて、木星は「柄」的にかなり好きな星。重力についてもちょっと調べてみましたが、いろいろありました(よくわかっていないときの常套句「いろいろ」)。「罪深き」という語の古色蒼然ぶりがオツ。
たはむれのはじめにめくるカレンダー 乙
木星からカレンダーへ、すっきりとみごとな付け方。シンプル(付け筋が明白)でいて、場面展開に軽い意表。
付け方はいろいろあるのですが、個人的には、ひとりの頭の中の連想を複数重ねるような、伝言ゲームで数人を経るような、ややこしい付け方は好みません。外部にあきらかなゲーム進行が好みです。
なお、「たはむれ」の部分は、具体的に何のはじめかを示す手もあったと思います。
さて、そこから突然、
褌みせてくれるんでせう オ
恋の座、それもBLの座。予定外でしたが、捌きとしては予定外は大歓迎。流れのままだと、歌仙ってつまらなくて、事件・事故があったほうがいい。
汝が胸に吾が息 とほく泳ぎきて 気
ちょうど私の番だったので、思いきり愛し合ってみました。
涼気を運ぶ短波放送 鯨
「遠」あるいは海から放送(英語 broadcasting が含む broad の部分が好きで、放送の翻訳語はここが欠けてるよなあと、いつも思います)。
恋の座のあとは、恋の気分を引きずらず、別の空気を持ってくるのがいいのですが、「涼気」はそれにかなっているような、別のほうがもっと離れるような。このへんのあんばいはむずかしい。また、個人の判断。
恋文にじらさないでとだけ書いて 景
で、またすぐに恋、こんどはヘテロで、という捌きからの要望に、いっけん慎ましい。でも、これ、恋文という仕掛けがそう見せるだけで、内容は、ぜんぜん腰が引けていない。
ふたりで金の孔雀を飼はう え
恋の返しとして、ちょっと身をかわして、それでも前向き。この恋は結婚まで行きそうです。「金の孔雀を飼う」はどこかの国・どこかの文化のイディオムみたいな趣き。良い意味で虚構的な味付けがふんだんに施されました。
(つづく)
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