2020/09/13

■〈非=五七五〉を愉しむ・その3


〈非=五七五〉の句には描写が少ない。抜き出していて、そう思いました。「豆の木」という集まりの傾向でもあるでしょうが、そればかりではない。五七五定型と描写(いわゆる写生)が強固に結びついている面があるので、五七五定型から外れてなお写生、というのは、手順的に操作的にむしろ不自然なのかもしれません。

意味了解性が比較的薄いこと、いわゆる「膝ポン」俳句、「あるある」俳句、標語俳句が少ない(ほとんど無い)こと。そんな傾向も見られます。従来的な俳句の集合、効果面でのマジョリティとは離れたところにあるようです。

では、引き続き『豆の木』第22号から。

みづむしの足フランスから郵便  高橋洋子

5-2/4-2-4。後半、PAR AVIONの赤青白が目に飛び込む。それは国際郵便の色であり、フランス国旗の色(トリコロール)でもある。洒落て清新な後半の前半がなぜに水虫? ああ、これこそが俳句の不思議です。 

姿かたちは法廷まなざしは雪  田島健一

7-4/5-2。散文的な妥当をいくつも壊しているので、「難解」「わからない」の誹りを受ける典型のような句。作者・田島健一は「難解」批判、「わからない」迫害の渦中に長くいる作家(大袈裟に表現してみた)。

この句、好きですよ(今回のシリーズであげている句はそれも好きです)。意味は辿るけれど、因習的に解釈しない。意味の因習から逃れていることがこの句の価値だと思うから。

まあ、それよりも、事物の感触と空間への布置を味わう。科学への態度。そのまますなおに、法廷の姿かたちしたものを脳内に繰り延べて、まざさしという形のないものに、雪の色と形状と温度を与えてみる。すると、私(読者)のなかで、きわめて新鮮な経験が沸き起こる。

約束って恐いよね ブーツ履かない  中内火星

6-5/3-4。対句ではなく対話のような作り。若い女性が想起されるのは、口吻とブーツのせいか。

痛みはじまり主よ加速する新緑  中嶋憲武

3-4/2/5-4。上掲3句の構造=前半と後半で2部構成と違い、「主よ」の2音が挟まる。切字以上に大きく切れるかのような形。意味的には前半と後半がわりあい順当に照応する。つまり、新緑のなか痛みが始まることに(そう散文的に示していないが)、なぜか実感。

それにしても新緑の加速は魅力的な言いぶりですね。


こんなところで、いったんおしまい。

〈非=五七五〉の俳句、愉しんでいただけましたでしょうか。

ラヴ&ピース!


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