ひとりずつ鏡に呼ばれ藪からし 倉本朝世〔*1〕
鏡よ鏡もうすぐ雪になるらしい 小林苑を〔*2〕
前者は川柳作家の俳句(句に添えられた解説に「俳句の句会」に参加したとき席題「藪からし」でつくった句とある)。「ヤブカラシ」はブドウ科の蔓植物で、初秋の季語。解説を読む前に「いかにも俳句的な」と感じたのは、この「藪からし」という季語が、ある程度経験や年数を経た俳人が使いそう(個人的な思い込みです)だから。前半の詩的なフレーズとの組み合わせも俳句的。
まあ、そうしたナニナニ的といったジャンルに関する不毛はさておき、鏡に呼ばれるという事態はなかなかに不思議。鏡の前に立てば、鏡のむこうにも「呼ばれ」た自分が立っているわけで、奇妙な同定作業のようにも思えてくる。
後者は、グリム童話の引用から天候の伝聞へ。質感と温度が句の芯にいっぽん通っている。
鏡の温度は低い。《死ぬならば夏いちまいの鏡のうへ 八田木枯『天袋』》。暑い夏も鏡の上はひんやりとして気持ちが良さそう。真夏の置かれた鏡にしても、カジュアルな景ならば、冷房のよく効いた室内を映している鏡がしっくりくる。熱帯雨林を映すよりも。
冬の温度は、鏡面の冷たさとよく合うんですよね。
ラヴ&ピース!
〔*1〕『あざみ通信』シークレット号2(2020年10月)
〔*2〕『みしみし』第7号(2020年秋)
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