2020/06/12

■猫と夜汽車 太田うさぎ『また明日』より

太田うさぎ句集『また明日』(2020年5月)を愉しく通読。このブログに、週刊俳句に、何度か取り上げるだろうと思うが、まずは、この一句。

恋猫に夜汽車の匂ひありにけり  太田うさぎ

なぜそんな匂いがするかというと、路地裏にいたから。

《路地裏を夜汽車と思ふ金魚かな 攝津幸彦》が感じよくさりげなく下敷きになっている。洒落てる。

(ついでに、路地をさまようとき、金魚がいたら、大きな瞳でじっと見つめるはず。猫は金魚とか無視できないタチだから。もちろんこれはこの句には書いてない)

で、そんなようなことを別にしても、恋猫は、じっさい、夜の闇をまとって/引きずって帰ってくるんですよ。

昨今は「猫は家で飼え、外には出すな」がマナーになっているが(ついでに去勢手術・避妊手術が必須)、以前、外にも出して飼っていたことがある。去勢していない雄猫は、さかりがつくと何日も帰ってこない。もう帰ってこないなと思った頃に、頬をげっそりさせて帰ってくる。どんだけがんばるねん!

きっと夜を徹して恋をもとめ、雌をもとめ、雄と争い、どこかで寝てどこかで餌を獲得して、何日も愛の旅をつづけたわけで、かなり愛おしくなる。ねぎらいたくなる(きっと強い雄に連戦連敗で、恋は成就しなかったにちがいなく、それだとよけいに愛おしい)。「おかえり」と抱きしめた。

そのとき、夜汽車の匂いがした記憶は、私にはないが、してもおかしくない。


というわけで、先行テクストをかろやかに遊びつつ、実感・実景もともなう。いいですね。






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