ふつう、句集というのは、一定期間作り貯めてきた、たくさんの句のなかから、2~300句を選び、並び順を決め、1冊にする。その点、大畑等句集『ねじ式』(2009年2月)はちょっと違う。
全五章が句群と句篇の二種に分かれ、このうち句群は上記のような通常の組成をもつものの、句篇は、短期間の制作期間。例えば、句篇「半陰陽の午後」は2007年2月27日から3月18日、およそ20日間に作られた1句から成る。
著者による後記には「句篇は一気に作った。その勢いが削がれるのをおそれ、できるだけ手を加えないようにした」とある。読者は句篇「半陰陽の午後」を読むとき、作り手・大畑等さんのその20日間という時間に、この句集で付き合うことになる。カジュアルに言えば、ライブ感を伝えようという意図と見ていいのだろうか。
ただ、この句篇の試みにとって、私は幸福に選ばれた読者ではないらしい。一気に作られた句篇よりも、通常の手順でチョイスされた句群に、好きな句が多かった。
男の首絞めたり葱を作ったり
流星群来よ大根を煮ておくから
法然廟蝶の湿気がぴらぴらする
立夏なり蛸は筋肉で泳ぐ
大畑等さんとは、ある時期、句座を共にさせていただいている。上に掲げた4句は、その頃に一読魅了された句。
絶対電柱少女ぎしぎし歩く
この句は以前にブログで取り上げ、週刊俳句のサバービア座談会でも取り上げた。この句集のタイトルが「ねじ式」ではなく、「絶対電柱少女」なら、どんなによかっただろう、と個人的には思っている。
ちょっと古い、って? そんなことは問題じゃないと思う。大畑さんも後記で「いっそ一周遅れの正確な時計でありたいものだ」と書いている。
串本節すたすた赤子眠るかな
三島忌やまだうら若き洗面器
あかつきの種痘痕から雨音する
なめくじのひとつうねるは狼煙なり
さて、こうして掲げてきた句の魅力のひとつは、スピード。句に備わるスピードの快感である。自分にはぴんと来ない句にも、スピードは備わっている。
いま、もっとも刺激的でスリリングで、スピードのある俳句を作れる作家のひとりが大畑等さんだと確信している。次の句集を手にするまでのあいだに、もう一度、この「ねじ式」という句集を、これまでとは違った姿勢(寝ころんだりトイレに坐ったり)でめくってみたいと思っている。
小野裕三氏による『ねじ式』評 ≫こちら
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