一九四三年に私はこう書き留めて置いた。「ニューヨークは、幼年期の夢が一堂に寄り集まったような魔法の場所がある。そこでは歳月を経たトーテム柱が唱いかつ語りかけ、奇妙なオブジェが不安気に凝固した表情で訪問客の方を窺い、また人間離れした優しさを持った動物たちが、前脚を人間の手のように合わせてこう祈っているように見える、選ばれた人のためにビーバーの宮殿を築き、海豹(あざらし)王国の案内人となり、あるいはその人に神秘的な抱擁を与えつつ、蛙や川蟬の言葉を教える特権を委ねて欲しい、と。ここに言うのは、時代遅れではあるが、奇妙にも有効な展示法のおかげで、仄暗がりの光のさす洞穴に入って崩れんばかりの過去の稀宝の山を前にしたような感動を与える、番外の魅力をも併せ持っている場所で、毎日十時から五時までの誰でも訪れることのできる、あのアメリカ自然史博物館の一隅である。そこはアラスカからブリティッシュ・コロンビアに至る太平洋北岸のイネディアン諸族の展示がなされている一階の広い部屋である」。
クロード・レヴィ=ストロース1975『仮面の道』(山口昌男・渡辺守章訳/1977年/新潮社)
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