2009/06/17

火星


夜をかけて火星の渡る稲穂かな  ふけとしこ

稲田ではなく稲穂だから、「夜をかけて火星の渡る/稲穂かな」と切って読み、火星は空を渡るのだろう。けれども、その空の下には稲穂だけが広がっているような気もしてくる(切って読んだはずなのに一句一章のような効果)。

火星といえば、虚の句も多い。

  箱庭に火星の光とどきけり  雪我狂流

虚の句もいいが、掲句は「実」の句。秋、稲の匂いが漂うなか、火星が夜空をゆっくりと渡る。なまめく夜。


ふけとしこ句集『インコに肩を』(2009年5月・本阿弥書店)より。

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