2008/09/15
食とポルノグラフィー
上田信治「美味しそうな句・不味そうな句」(『俳句界』2008年9月号・特集:皿の上の秋)がおもしろかった。
食べ物が「美味しそう」に描かれた作品は、ポルノグラフィーに近い。(…略)何かにむけて人の欲望をかき立てるには、まず、その対象を生き生きと再現し、感覚を刺激すればいい。俳句には、季語と写生という持ち札があるので、対象のポルノ的再現はお手のものと言える。
これが冒頭。そののち美味しそうな句を挙げながら、モノの「現実感」、また、しばしば付随する物語性について、濃い記述が続く。筆の達者な人であることはよく知っている。併せて、掲句の豊かさ、鮮やかさも。この人のアタマには、強力な俳句データベースが備わっているようだ。
で、ちょっと話をそらして。
食と性行為は、言語的なレベルでたいへん繋がりが深い。卑近な例示になるが、「据え膳食わぬは男のうんぬん」「食っちゃう」などなど。これは日本語だけの事情ではないらしい。
英語で巧い例は思いつかないが、十代の頃、ちょっとマセた友人が、レッド・ツェッペリンの「レモン・ソング」という曲の歌詞をさかんに艶笑的に騒ぎ立てていたことを思い出した。
The Lemon Song lyrics
スクイーズ(squeeze)は、「絞る」を含んだ「抱きしめる」で、性的含意は広く浸透したものかもしれない。女性シンガー、マリア・マルダーにも「スクイーズ・ミー」という曲がある。
Squeeze Me lyrics
閑話休題。
「美味しそうな句・不味そうな句」という記事には、数は少ないが「不味そうな句」も掲げられている。
虎がこすつたぬくい鉄棒味噌汁の中 永田耕衣
たしかに不味そう。
この記事の最後には、永田耕衣のとびきり美味しそうな句も3句挙げられていて、このへんがさきほど言った「掲句の豊かさ、鮮やかさ」。不味そうな句だけ挙げられたんじゃ、永田耕衣も浮かばれない。
『俳句界』9月号を手に取る機会があれば、ぜひご一読を。
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2 件のコメント:
私もこの文章は名文だと思います。それにしても
> 虎がこすつたぬくい鉄棒味噌汁の中 永田耕衣
には涙が出ました。最高に不味そうなんだもの。そしてそのコメントに大爆笑しました。
いらっしゃいませ。
そうですね。紙媒体のせいもあって、ちょっとオン、ちょっとフォーマルな感じでした。
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